不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死を呼ぶペルシュロン/J・F・バーディン

死を呼ぶペルシュロン (晶文社ミステリ)

死を呼ぶペルシュロン (晶文社ミステリ)

 サイコ・サスペンスの先駆けとよく呼ばれるバーディンであるが、『死を呼ぶペルシュロン』を読む限り、それは違うんじゃないのと言いたい。確かに、髪にハイビスカスを挿して、小人に金を貰ったと主張する青年はイッてしまっている。記憶喪失を起こして話をややこしくする主人公もたいがいである。しかしながらここには狂気ゆえの犯罪が存在せず、結局のところ世界は正気に回収されて終わる。
 前衛的な作品であることは認めるが、本質的にサイコ・サスペンスとはまるで異なるベクトルを持つ。我々読者は、バーディンが独自の世界を築いたことを潔く認め、無理矢理ほかのメジャーな存在と関連付けるよりも、このオリジナリティを吟味すべきなのだ。

 というわけで、私は非常に楽しめた一冊。晶文社ミステリ・コレクションの中にあっては、確かに分が悪いできであることは認めるが、水準以上にはじゅうぶん到達しており、読んでも損はないと思う。