不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団

ラヴェル:道化師の朝の歌、ピアノ協奏曲、ラ・ヴァルス
ムソルグスキーラヴェル編曲):組曲展覧会の絵

ピアノ独奏はニコライ・ルガンスキー、指揮はワレリー・ゲルギエフ

 よく考えると今年はこれまでずっと、職人気質の指揮者しか聴いていない。ゲルギエフは(全体設計はオーソドックスだが)情熱的な演奏で聴衆を湧かせるタイプだけに、この半年間にあっては新鮮な雰囲気に浸れるかもと期待して聴いた。
 ロッテルダム・フィルの音色が痩せている。では繊細なのかというと、そうではなく、単に安っぽいだけである。特に木管群は酷く、ニュアンスを込める、なんて芸当まで手が回っていない。金管もへたれ。ぶっちゃけN響都響、新日フィルの方がうまいと思う。こういうオーケストラに《ボレロ》《ラ・ヴァルス》以外のラヴェルをやらせてはいけないと思う。事実、《道化師の朝の歌》は漫然と音が響いているだけで、時計仕掛けのような精妙な味わいがなかった。しかし《ラ・ヴァルス》は、ワルツのリズムをためて情熱的に振舞うゲルギエフの煽りと相俟って、なかなかの聞き物であった。
 後半の《展覧会の絵》は本格的に持ち直し、満足できた。この曲は、編曲者を重視するか作曲者を重視するかで大きく印象が変わってくるのだが、ゲルギエフムソルグスキーの方を意識しているのは間違いなく、重量感たっぷり、情熱もたっぷりの演奏を目指していた。オーケストラにようやくエンジンがかかり、盛大に鳴っていたのは幸いである。なお、ここぞというところで音を楽譜以上に伸ばす手法は印象的で、演奏効果にも目を配ったうまい手法だと思う。こういうあざとさ、実は非常に久しぶりなんですよ。
 ピアノ協奏曲は、ルガンスキーが予想外にあっさり弾いてしまい、欲求不満に陥る。こんなにさらさらしていいんでしょうかね。ジャズからの影響もある曲なので、もっと羽目を外してスウィングするのもありかと思う。また、第二楽章ももうちょっと纏綿として欲しい。ただ音色や技術はさすがであり、リサイタルの日程が合えば聴いてみたい。

 アンコールはプロコフィエフ:《3つのオレンジの恋》より行進曲。このおっさん本当にプロコ好きだなあ。演奏も一番乗っておりました。