不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

弁護士は奇策で勝負する/D・ローゼンフェルト

弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)

弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)

 法廷小説である。主人公(弁護士)は家族を含め脅迫されるけれども、昨今流行の法廷サスペンスとまでは言えず、飽くまでも法廷における駆け引きを重視する作法。人間ドラマには適度な濃さがあり、かといって深刻になり過ぎることもなく、お涙頂戴的なベタな展開もあまりない。父親が死ぬのだけはあざといと思うが、だからと言ってファザコン小説に陥らないのはありがたい。『弁護士は奇策で勝負する』は父子小説でもある。しかし主人公が終始「既に自立した息子」であり続けるのが、読んでいても快適な最大の理由だろう。
 ストーリーも様々な紆余曲折を辿るが、その混乱ぶりはページ数なりの小気味良いものに収まっている。物語の緩急も実にうまい。ここら辺は既にして職人技だ。ローゼンフェルト、結構な業師かもしれない。
 気軽に読めるので、多くの人に読んでもらいたい一冊だ。