不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

物狂い/土屋隆夫

物狂い

物狂い

 87歳にして700枚の長編を書ける土屋隆夫。エロスも相変わらず、後味の悪さも天下一品だ。矍鑠たるかなこの翁。文章の古さは〈味〉と認めて楽しむべきだろう。

 なお、いくら田舎でも幽霊はこんなに簡単に信じられません、などと抗議する人も多いかもしれない。しかし田舎とは実際こんなものだと思うし、都市伝説のことを考えれば、大都会だって実態はそれほど変わらない。そもそも、このような小説を何の疑いもなく書いてしまう作家の存在自体が(いくら年寄りだとしても)、現代人にもまだまだ怪談を〈信じる〉層がいることを証明している。要するに、人間は千差万別でありピンキリである。世代間の隔たりも大きし、地域差も歴然としている。個人差ももちろんたいへんなもので、頭のいい人は本当に頭がよく、そうではない人は徹底的かつ致命的だ。
 しかしそれでも皆生きている。生きていける。それこそが、人間の素晴らしさでもあり、同時に限界でもある。