不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

新日本フィルハーモニー交響楽団

  1. ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》より前奏曲と愛の死
  2. リスト:ピアノ協奏曲第1番
  3. ブルックナー交響曲第4番《ロマンティック》

ピアノ独奏はロナルド・ブラウティガム、指揮はハンス・グラーフ。

 ちなみに定期演奏会。そう、定期演奏会ですよ先生。特別公演という名のドサ回りではない! オーケストラの定期公演になかなか行けないくらい落ちぶれ果てた私にとって、これは一抹の清涼剤になったことだよ。

 オケはミスもなく、よく鳴っていた。感想はこれに尽きる。
 表現上は特に右顧左眄せず、楽想はまっすぐに奏でられ、耳をそばだてるような表現はついぞ見られなかった。しかし音に適切な潤いがあり、四角四面な印象は薄く、むしろ柔軟性に富んだ美しい演奏であったと思う。しかし曲が曲なので、ぶっちゃけちと退屈した。
 ワーグナーにおいては、もうちょっと背徳感というか、暗いものを感じさせてくれても良かったと思う。さすがにネアカではなかったが、表現が一本気なので、何かが生成され消滅してゆく「推移」を描く音楽が相手の場合、この表現では少々食い足りない。
 ブルックナーについては、上記の一本気な表現だと、特に第一楽章の構造上の欠陥が丸裸になってしまう。つまり、同じことが延々と繰り返されているだけのように思えるのだ。もちろんこの曲は元からそういう曲なので、これは演奏者の責任ではない。反面、第二楽章以降は楽しめた。ただ、響きが健康的だったのは、好みの問題もあろうが個人的には食い足りなかった。もうちょっと暗い情感を出してくれた方が、雰囲気が出てよかったと思われる。
 とはいえ、特にブルックナーについては、この曲がここまでまともに鳴っているのを(実演で)聴ける機会は多くない。グラーフの手腕は確かなものだと感じ入った次第である。

 協奏曲について言うべきことは非常に少ない。ブラウティガムはうまかった。だが、派手派手しく見得を切るようなところは皆無で、細身の音をベースにすいすいと事を運んでいた。フォルテピアノと二足のわらじを履く人らしいが、それやられると、ことこの曲はそれほど面白くない。これまたちょっと食い足りなかった。