不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団

 五月の狂騒へ向けてのプレイベント。
ベートーヴェン:《エグモント》序曲、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第5番
ヴァイオリンはパトリシア・コパチンスカヤ、指揮はスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ

 当初のお目当ては今年81歳になるスクロヴァチェフスキであった。そろそろ聴いておかんと死なれてしまうと思い出かけたが、まず誰よりもコパチンスカヤが凄かったことを報告しておきたい。まったくの未知の人だったのだが、これがもう予想を圧倒的に裏切りまくって激しく異常であった。基本的にはフニャフニャした音を出し、テンポやリズムも独特。まるで二十世紀後半以降の音楽を聴いているかのよう。かと思ったら唐突にハイテンションで弾き出したり、異常に繊細な弱音を聴かせたりして、もうとにかく飽きさせない。次に何がおきるのかと耳が釘付け。カデンツァ(シュナイダーハン作曲というこれまた変なものを出してきた。ティンパニも活躍しちゃう、面白いものであった)の方が明らかにやる気満々だったのには笑った。
 などと言いまくっていると単に好き勝手やってたただけなんじゃないのと疑われそうだが、不思議と合わせにくい感じでもない。事実、指揮者やオケがいやな顔をしていたわけでもありませんでした。
 独奏者アンコールのOtto Zykann:Das mit der Stimme(声と共に、とかって訳せばいいのか?)も凄く面白かった。こっちは完全に現代音楽であり、ヴァイオリニストが声を出すは足を踏み鳴らすはくるりと回るは、という曲だが、コパチンスカヤって元来、こういう曲の方が好きなんじゃないかと思ったりもした。

 というわけで、俺的には序曲と交響曲が完全に食われていたように思うが、駄目な演奏であったわけではない。スクロヴァチェフスキらしい変なこだわりが随所に見られ、特に弦の弓使いで相当に細工されていたのが面白かった。推進力もあり、オケもよく鳴っていて目立つミスもなく、なかなか結構なお手前でござった。
 やはり行って良かったと思われ。