不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

バルーン・タウンの殺人/松尾由美

バルーン・タウンの殺人 (創元推理文庫)

バルーン・タウンの殺人 (創元推理文庫)

 至高の名作とされる本書だが、初読である。今までいかに半端にヲタってきたかわかろうというものだ。

 だがそんな思いをよそに、内容は非常に楽しめた。最近は多忙のため、読み終えるまでに流れ去った時が莫大なものとなっており、その上短編集のため、なかなか一冊通したまとまった感想は出てこない。しかし、妊婦のセオリーで機能するコミュニティにおいて発生した事件の、ある意味歪んだ論理は素晴らしい。文章も洗練されていて、しかも読みやすい。高い世評も頷ける、必読クラスの作品である。

 ただ、微妙にだけれども、のめり込めなかった。これは恐らく、小説内の社会と、今現在の社会が、妊婦の扱いの点であまりにも違いすぎるからだろう。
 この小説の世界においては、子供は人工子宮でなすものであり、妊娠と出産は一種の下品な行動と看做される。ゆえにここでの妊婦は、一種の特殊な人間であり、マイノリティ尊重という観点から社会性に富んだテーマを提供する。実際、作者もその方向での寄り道もけっこうする。しかし、こと現実においてそのようなことはまったくないので、僅かに垣間見える被害者意識的なものは、特に私のような、男性なので当然妊娠不可能な上に、誰かを妊娠させる可能性も有性生物最低レベルにある人間から見れば、違和感が残る。
 さらに、「ことほど左様に妊娠は大切なことですから、皆も妊娠・出産について認識を改めてね」的な意図もどうもない。舞台となっている社会においては社会的テーマだから、という単純な理由で、現実社会とは無縁と思われる社会的テーマを扱っているののだ。というわけで、ありえない社会特有の社会問題を、現実とは乖離したところで真面目に問いかけるわけで、これってまさしくSFなのかも知れぬ。

 ああもう駄目だ。文章ぐちゃぐちゃ。疲弊しているところでまとまった感想書こうとしても無駄なわけで。ていうかもう疲れた。明日と明後日はもう休む。出社拒否。ていうか本当は土日。