不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロンドン交響楽団&庄司沙矢香(ヴァイオリン)

シベリウス交響詩《大洋の女神》&ヴァイオリン協奏曲
ストラヴィンスキーバレエ音楽火の鳥》全曲(1910年版)
指揮はサー・コリン・デイヴィス

 前半のシベリウス二曲について、オケは暖色系の音色で攻めていた。茫洋とした曲である《大洋の女神》においては、これが必ずしもプラスに働いていなかったのは残念。とはいえ実演の機会が少ない曲なので、ちゃんとしたオケが奏でる、というだけで満足は可能。ロンドン交響楽団はちゃんとしたオケどころの話じゃないので、相当満足したわけです。

 ヴァイオリン協奏曲は、庄司沙矢香の(やや線は細いが)熱いソロが楽しめた。しかしオケ(無論コリン・デイヴィスの意図に沿った結果だろうが)はあくまで鷹揚で、方向性に齟齬を感じ取る。突っ走る庄司にデイヴィスが付き合っている気配濃厚。面白い演奏ではあったが、音楽って難しいねえという感想を終始拭いきれなかった。まあ曲が曲だからという説もある。ソロのアンコール(未知の曲。情報を総合するとイザイかサリネンだが……)の方が素直に良かったよ。なお、カデンツァ最大の見せ場で、パンフ類を床にぶちまける馬鹿が出た。あーあ。
 ていうか今日の聴衆はレベル高いとは言いがたかった。弱音部 or パウゼになると、いつも誰かが必ず物音を立てる。咳する奴も不自然に多かった。私は本来、咳には寛容だが、「咳の聞こえない瞬間の方が少ない」のはさすがにどうかと思う。学校法人主催の公演で、日頃はクラシックに無縁な客が大量にいたこともありそうだ。聴き手としてはチケット購入時に覚悟済みとはいえ、演奏者には気の毒でならない。

 後半の《火の鳥》は一転透明な音色に変じ、マジですかレベルの凄い演奏を繰り広げた。解釈・サウンド両面が異常なまでに明晰で、技術的な精度も凄まじい。もう完全にノックアウト。アンコールのチャイコフスキーも同傾向の演奏で、盛大なフライング拍手が起きた。聴き手として思うに、今日はそれも仕方ない。デイヴィスの表情は固かったですけど……。

 にしても、ロンドン交響楽団って、あんなに高機能なオーケストラだったんですね。しかも名誉総帥はエリザベス2世である。だがそんなオケも、《スター・ウォーズ》や《ハリー・ポッター》などでバイトしている。やっぱクラシックだけじゃ、食えないんですねえ……。