不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ギャングスターウォーカーズ/吉川良太郎

ギャングスターウォーカーズ (カッパ・ノベルス)

ギャングスターウォーカーズ (カッパ・ノベルス)

 シノワズリ、なんて言葉を持ち出されるとヘレン・マクロイの最高傑作を思い浮かべざるを得ないが、マクロイが清を舞台に、当時の西洋人の予断(失礼!)をもって上流社会を描いたのに比べ、吉川良太郎は近未来を舞台に、サイバーパンク気味な権謀術数の世界を、けっこう丹念に描く。シノワズリな雰囲気はほとんど確信犯的であり、かつSFなんで「それ違う」と文句を付けにくいという感じだ。ノワール的な雰囲気を基調としつつ、一人称の主人公は善良だし、若干異形ながら萌え要素も含まれるため、結構幅広い層にアピールするんじゃないかと思われる。イラストもその線で攻めている。

 ただし、主人公はあまりにも色々巻き込まれ過ぎで、必然性はあるらしいのだが、それが何か明らかにされないのは問題だろう。伏線張りまくって結局全部放置されるのは、肩透かし以前にフラストレーションが溜まる。続編書く気あるなら良いのだが、どうもそうは見えないし……。
 それとも、私は何か致命的な誤読をしているのだろうか? 真面目に読んでいれば気付ける、あからさまに仄めかされた真相を読み落としたとか?

 というわけで、吉川良太郎独自のシノワズリな雰囲気を満喫すべき作品。筋立てとかには、あまりこだわらない方が良いだろう。