不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ドゥームズデイ・ブック/K・ウィリス

 中世へのタイムトラベルを描くSF。

 恩田陸が解説を書いており、これが非常に興味深い。

『航路』は、単なるうまさの域を越え、もはや二階級特進くらいのレベルでテクニックが
突き抜けてしまったため、再びテクニックが目に付くようになったからだろう。
だから、この『ドゥームズデイ・ブック』は、彼女の作品の中でもテクニックが
呼吸のようにとても自然に溶け込んだ、非常にバランスのよい作品であるといえよう。

 現状の私とは好悪の点でスタンスが正反対だが、同じ内容の感想を抱いておられるようんだ。
 つまり、コニー・ウィリスは技巧の作家で、いかにして読者を感動させるかについて綿密な計算を行って、それに則って長大な作品を練り上げる。で、『航路』だとテクニカルな面が表面化していたが、『ドゥームズデイ・ブック』には小説的な肉付けが多いというわけ。
 私は『航路』を先に読んだため、『ドゥームズデイ・ブック』でも技巧面を強く感じたが、読む順が逆であったら事情は変わっていたと思う。残念である。

 個人的感想を更に加えよう。
 登場人物は、味方にせよ敵役にせよ、類型的・典型的な奴ばかりである。特に敵役については風刺的な面も強いが、だからと言って異常な人格が浮き上がるわけでもない。また全ての登場人物の描写についても、深い洞察とかは皆無であり、終始非常にわかりやすい。話の展開もシンプルそのものだ。前半、話をそれほど動かさない範囲で、人々を活き活きと、そして延々と描写し、後半になると物語を俄然アップテンポに煽って怒涛の展開を見せる。これを通して何をやるかという、作者の狙いは明白だ。前半において、シンプルな話と登場人物に、物量攻撃で読者の感情移入を誘う。そして、後半で登場人物を激しく動揺させ読者の感動を誘うのである。

 私は今回も乗れなかった。この長さは無駄だとしか思えない。複雑さとは完全に無縁の話をここまで長大化する意味はない。キャラ軽視・感動軽視の私の読書スタンスが悪いという説もある。
 力量は凄いと思うので、姉妹作を楽しみにしている。