不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ふたりジャネット/T・ビッスン

ふたりジャネット (奇想コレクション)

ふたりジャネット (奇想コレクション)

 この作家は初めて読むが、基本的には法螺話である。各作品ごとに味わいや読後感は異なるが、少なくとも以下のことは言えるだろう。テリー・ビッスンは、ラファティほどとぼけ切らず、ヴォネガットほど高尚ではなく、エリンほど暗くもない。また、スタージョンほど発想がおかしくないし、かと言ってシモンズほど普通でもない。これはこれで独特な世界と感じられるし、読みやすいのは非常にありがたい。

 個人的な一押しは「冥界飛行士」で、ラスト近くの不気味で静謐な情感がたまらない。しかしこの一編は、収録短編の中では異色であり、他はもっと明るい。《ウー博士三部作》は文系の書いた馬鹿SFとして素晴らしく、一冊にまとまっているのは嬉しい。三部作の中では、スケール大きいんだか小さいんだかよくわからない「時間通りに教会へ」がお気に入り。

 他もピックアップする。「英国航海中」は、イギリスが大西洋を航海するのを尻目に、一人の男の孤独が描かれる傑作。「熊が火を発見する」は、ユーモラスな情景で〈死〉を暖かく包む、名高い作品。

 その他数編収められており、いずれも佳作以上の出来を誇る。広くお薦めしたい。