不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鈴木雅明(チェンバロ)

フローベルガー:1649年のコレクションより「トッカータニ調」「カンツォンニ調」「トッカータト調」
組曲ハ調「フェルディナント4世の崩御を嘆くラメント」
J.S.バッハソナタ BWV964(ヴァイオリン・ソナタBWV1003による編曲)
フローベルガー:ムッシュ・ブランシュロシュのためのトンボー
J.S.バッハ:パルティータ第6番 BWV830

 正規プログラムは以上。アンコールは舞曲系のメランコリックな曲だったが、曲名を言ってくれず、ホワイエにも貼り出されなかったので詳細不明。

 久々にチェンバロの典雅な響きを堪能。もちろん典雅と言ってもフローベルガーとバッハなので、限界はある。この二人は独墺の作曲家であり、形式による構築美で魅せる面をふんだんに持つ。フランス系ほど融通無碍ではなく、イタリア系ほどメロディーに傾斜していない。鈴木雅明はいい意味で堅実・真摯にチェンバロを弾き、曲の構成美を引き出していた。これは狙って得られた結果ではなく、鈴木雅明がそもそもこういう芸風であり、真面目な奏楽が自然に、フローベルガーやバッハの特性とマッチングしたのだと思う。ひょっとすると、鈴木雅明はドイツ=オーストリア系の作曲家に適合した演奏家なのかもしれない。

 こう考えると、彼のレパートリーが独墺系に大きく偏っているのは、自分の適性を冷静に判断しているから、という見方も可能だ。まあこれは彼がオランダで学んだから、という派閥的・出自的な理由の可能性も高い。(レオンハルトクイケン兄弟、コープマン等、オランダ系の古楽演奏家は独墺系の作品を主に演奏する。オランダがプロテスタント教国だからか? だとすると墺の方の説明が付かんが)

 いずれにせよ、演奏自体には極めて満足した。良かった良かった。