不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ミスティック・リバー/D・ルヘイン

ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 少年時代を懐かしむ、全ての人に捧げられた感動の物語らしい。おいおいという惹句だ。大半の人はこんなの捧げられても困惑するだけだろう。私のミステリ暦はそろそろ十数年を数えるし、結論付けても構わない経験値を手に入れたと考える。よって断言してしまおう。早川の煽りは、ピントがずれている。ほとんど常に。

 だが無茶な出版社をよそに、作品はなかなか面白い。

 少年期に友達だったことがある三人の男が、それぞれまるで違う生活を営んだ後、再び出会うのみならず、人生の糸が激しく交錯する物語だ。彼らは昔のことを懐かしんだりはしない。ただ思い出し、それをよそに今目の前にある事件に、それぞれ取り組むだけである。少年時代の楽しい思い出なんぞ、登場人物的にはまるで重要じゃない。だからこそ余計に、成長や時間はなんと残酷なのだろうと思える仕上がりとなっている。そしてそれ以上に、そもそも人生とはなんと重いのだろうか。読み応えは十分。好きな人は本当に好きなんだろうな。

 ルヘインは基本おセンチな作家だが、わかりやすいセンチではないので、なかなか万人にはお勧めできない。気が付くと淀んだ空気に漬かっていることも稀ではなく、私だって平日とかには読みたくない。ついでに日曜の夜とかにも読みたくない。しかし、私はこれを日曜の夕方以降に読んでしまった。だから今週は不調だったのだろうか?