不壊の槍は折られましたが、何か?

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偉大なる夢/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島 (光文社文庫)

 戦意高揚小説だが、乱歩の長編としてはかなり本格度が高い。度重なる日本人への賞賛と鼓舞、鬼畜米英の非道の強調は鬱陶しいものの、機密を巡る話の骨格自体はなかなかしっかりしており、読み応えがある。

 戦時下に書かれた小説であることを頭に入れつつ読めば、傑作と言い得る。惜しむらくは、本格の側面をもっと強く打ち出してもらいたかったことだが、これが時局の巡り合わせというものだろう。いずれにせよ、乱歩の長編の中でも水準を越えた出来だ。作者自身ある程度自信を持っていた形跡があるし、ファンは必読だろう。