智恵の一太郎／江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島 (光文社文庫)

　私は、登場人物の思考や作者の世界認識があまりに浅はかな小説を読むと、かなりむかついてしまう。ただしこの憤怒は、人物や作者そのものに向けられていて、作品の面白さとは一応無関係である。裏返せば、作品が非常につまらなくても、呆れたりうんざりしたりはするが、怒りは覚えない。私は本来、そういう読み手である。

　しかしながら、『智恵の一太郎』のあまりのつまらなさに、私は怒りを覚えた。のみならず、久しぶりに本を床に叩き付けそうになった。一太郎や乱歩が馬鹿だとは思わないが、話のどうでもよさ、内容のなさはあまりにも圧倒的である。もちろん、当時の時代状況から考えて、探偵小説を自由に書くわけにはいかなかったという事情もある。こういう題材に拠らざるを得なかった乱歩には、心底同情申し上げる。しかし、だからと言ってこの作品に理解のある振りをしても始まらない。これは私にとっては、まず間違いなく乱歩の最駄作候補になるだろう。