不壊の槍は折られましたが、何か?

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新宝島/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島 (光文社文庫)

 月例行事となりつつある、乱歩全集感想記述です。まあ大方の人は今更だろうし興味もあるまいが、割と未読で残しているので個人的には楽しんでいる。

 で、『新宝島』である。
 なるほど乱歩の書いた秘境冒険モノというのは貴重ではあろう。だがそれ以上の価値は皆無であり、楽しい読書をしたい人には時間の無駄だ。夢と幻想を追い求める乱歩の姿勢は貫かれているが、ゆえに緊張感が喪われている。もうちょっと自然の脅威とか出してもいいだろ、と思われるのだ。そもそも、ここで描かれる自然はパノラマじみていて感心しない。たとえば火山のなんというショボさ! さりとて知恵で苦難を乗り切るという感じでもなく、話はどこか弛緩している。

 乱歩の求めるファンタジーは所詮人工のもので、『新宝島』のように大自然を舞台とした物語ではもの凄く裏目に出てしまったということだろう。残念だが、得手不得手は誰にでもある。他の作品が面白ければ、それで良いだろう。