不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ボストン、沈黙の街/W・ランディ

ボストン、沈黙の街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボストン、沈黙の街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 各種年末ベストで評判が良いので、読んでみた。

 主人公ベン・トルーマンの造形がなかなか興味深い。この主人公は三十台半ばの男性で、ボストンで大学に入った後、故郷に戻って親父の跡を継ぎ、署員が他に一人しかいないようなちっぽけな町の警察署長を務めている。そんなベンが、管内で起きた殺人事件に首を突っ込み、はるばるボストンまで遠征する、というのが話の骨子だ。彼の一人称は「わたし」だが、「ぼく」だったとしても違和感のない純朴さが漂う。地の文や台詞回しからは、キャラが強烈だとも思えない。しかし一方で、美人検事との恋愛がえらく淡白だったりして、大人なのか少年なのか軸がはっきりしない。この曖昧さが結構魅力的で、本書最大の読みどころとなっている。

 なお物語前半はマターリだが、後半になると緊迫度が俄然増し、事件は意外な展開を見せる。ここら辺のストーリーテリングは、読みやすい訳文も手伝って印象的。暗示的で解釈に迷うラストも含め、物語を手繰る作者の腕は確かであり安心して読める。広く薦められる佳作だと思う。