不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

あすなろの詩/鯨統一郎

あすなろの詩 (角川文庫)

あすなろの詩 (角川文庫)

 この作家を読むのは、実はまだ二作目。本格が読書の基盤、と自分で信じ込んでいる人間としては、恥ずべきことだろう。で、またもやちょっと微妙な感想を抱いてしまった。箸にも棒にもかからぬ、とまでは思わんし、好き嫌いで行けばむしろ好きなんだが……。

 前半は青春小説であり、キャンパスライフを爽やかに描く。無論実際は、学生の胸中にはもっと色々と去来し渦巻くのだろうが、事実をさらさら書けば確かにこうなる。なお友情の要素は薄く、プライドのせめぎ合いと恋模様とがクローズアップされるのだが、陰惨な印象を伴わないのは特徴的で、ひょっとするとこれが鯨の「芸風」かなと思う。先にも述べたようにまだわずか二作目なので、間違っている可能性は高いと認める。

 でも何だかいいですね、この登場人物たち。私の学生時代もこうあってほしかった……。

 問題は、嵐の山荘ものと化す後半である。この真相を感情面で映えさせるには、文章が飄々とし過ぎというか何というか。クローズド・サークルに持ち込まず、前半のノリのまま大学近辺で事件に突入していれば、私ももっと共感できたかもしれない。緊迫感が出ていないのも、正直マズい。ステレオタイプな本格を志向するあまり、あり得た成果を逃してしまった、とは言い過ぎだろうか。山荘であることを活かした設定がないわけじゃないが、決め手になってないんだよな。

 あと、詳しく書けなくて申し訳ないが、ネタそのものも微妙でした。前例があるから文句を付けているわけではない。信じてください、お願いします。