不壊の槍は折られましたが、何か?

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星の綿毛/藤田雅矢

星の綿毛 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

星の綿毛 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 あとがきから鑑みるに、藤田雅矢は『地球の長い午後』『逆転世界』『宝石泥棒』辺りがSFだと思っている。『逆転世界』は未読だからよくわからんのだが、これら三作に触発されたという『星の綿毛』は、確かにオールディスと山田正紀には連なる作品である。要するに、ファンタジー臭さえする異世界(表面的にはローテク)を舞台とした、「せつない」叙情系の物語。後半になってから加速度的にSFらしくなってゆくのも定石&予想通り。でもやっぱり、こういうの楽しいんだよなあ。

 特筆すべきはラスト数十ページである。ここには残酷な絶望と救済の優しさ双方が刻まれており、非常に印象的だ。残念ながら『グラン・ヴァカンス』に比べると見劣りするが、これはさすがに比べる私が悪い。藤田雅矢の筆は、あくまで終始ソフトなのだから。

 一段組みなので実はそんなに長くないし、恋愛以外で「せつない」小説が読みたい人にはお薦め。