魔/笠井潔
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/09/25
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
どちらの作品にも、イデオロギーが出て来ない。代わりに、ストーカーとか拒食症とか、社会問題的な事物が出て来る。ただ、問題が個人に帰着するためか、大上段に演説をぶつ展開は影を潜め、探偵役の飛鳥井も、カウンセラーの鷺沼も、落ち着きつつも親身になって、事件に当たる。特に飛鳥井は寡黙であり、私立探偵という設定もあり、沢崎に通じるものを感じる。
以上の特徴のため、ミステリとしての核が、表面に露出している。事件内容も、物語の基調がハードボイルドのためか、かなり簡素化されており、作者の本格ミステリ作家としての腕が、より直截に感じ取れるようになっている。今更だが、やはりこの作家は実力者だと思う。謎と解明、真相のなんと端正なことか。
ハードなファンには、こういうのを笠井が書く必要性がどこに、などと言われるかもしれない。正直、私も若干そう思う。ただ、原寮(←当て字)がご存知の通り超寡作家である以上、こういう作品は個人的にはありがたい。笠井も55歳。ひょっとすると、こういう作品の方が書きやすくなっているかもしれない。