不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺人の代償/H・ホイッティントン

殺人の代償 (扶桑社ミステリー)

殺人の代償 (扶桑社ミステリー)

 実に面白くなさそうなタイトルだが、《ペッパーバックの王者》という謳い文句と、ノワール臭い粗筋紹介に惹かれるものを感じ、購入してみた。

 期待は裏切られず、楽しめた。1958年の作だが、ストレートな倒叙サスペンスをベースに、主人公と彼を巡る女たちをノワールっぽいキャラにした感じである。このキャラ達が魅力の根源。シンプルな文体で、根っからの悪ではないが良心の呵責もない、絶妙な心情描写をさらりとやってのける。筋立ても割に凝っていて、弛緩しないスピーディーな展開も奏功し、読者を飽きさせない。王者かどうかはともかく、この作品が、安手だが最上級の楽しみを与えてくれたのは確か。イデアとしてのペイパーバックそのものという感じ。再評価の機運が高まったらいいなあ。