不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

本格的 死人と狂人たち/鳥飼否宇

本格的―死人と狂人たち (ミステリー・リーグ)

本格的―死人と狂人たち (ミステリー・リーグ)

 とある大学を舞台に、学者や学生、刑事たちが繰り広げる奇天烈な言動と事件を描く。連作短編集だが、全編にわたる仕掛けがないわけでもない。

 とにかく登場人物たちが変人揃い。妙にとぼけた味が好ましい。フィールドワークをする変態数学者が殺人事件に巻き込まれる「変態」、擬態の講義(学生の楽しい私語付き)をしていたら……という「擬態」、クローンの研究者が人間でクローン作っちゃったんじゃ……という「形態」、いずれも、楽しく読めた。本格として見た場合、「擬態」はなかなかのものだと思う。「変態」は、あまりと言えばあまりなアリバイ工作が面白いが、出来自体は水準にとどまる。「形態」がこの中では一番詰まらない。とはいえ悪いわけではない。

 本書最大の問題は、最後の最後に出て来る「実態」であろう。蛇足の一言で片付けるべき気もするが、実際のところ私はそれほど悪い印象を持っていない。とはいえ、つまらんのは事実なので擁護もしたくない感じ。一冊の本としては楽しめる部分が多いので、個人個人の中で需給の折り合いが付けば読んでもいいと思う。