不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

透明人間の納屋/島田荘司

透明人間の納屋 (ミステリーランド)

透明人間の納屋 (ミステリーランド)

 島田荘司は本当の本当に久しぶりだが、案の定、本当の本当に相変わらずだ。一応この叢書は子供向けとの体裁をとるが、第一回配本の三冊中、二冊はそのことを余り気にしていない。正確に言うと、子供の視線を気にしつつもガキにはわからないだろうスパイスをふんだんにまぶし、それが最大の読みどころになっているのが、殊能将之の『子どもの王様』、そして端から本当にガキ云々を無視している or 勘違いしているのが、本作『透明人間の納屋』である。屈折者と直球者の違いが出ていて興味深い。

 それはさておき『透明人間の納屋』だ。
 本格としての出来は、実はそんなに良くない。この作者にしては謎が弱いし、トリックがちょっと不明瞭。現実可能性の検討に少し手間取るレベル。話そのものは、最終的には社会派に落ち着く、終始暗い色調を保つ「おっさんの懐旧譚」である。社会派的なテーマは割と至近のネタで、例によって関係者からのお手紙で〆られる。このテーマに取り組む意気は買うのだが、どの程度が作者自身の意見か量れないのは問題である。全部作者の本音と考えた場合、私が抱いていた島田荘司の政治的スタンスの認識を変える必要があり、もし本音でないなら、なぜそんな誤解を招くようなことを子供向けにやるのか訝しい。
 なお、話全体を覆う鬱っぽいムードは特筆すべきである。子供向けだからと島田は容赦せず、ほぼフルパワーで、重いテーマを読者に投げかけようとする。その真摯な視線には、思わず感じ入ってしまうのである。ここら辺はもはや鬼才というか傑物。「お手紙」の内容も考え合わせると、作者がこの叢書の趣旨をよく理解していなかった可能性も考えられるが、島荘は骨の髄まで島荘であり、気楽な話、希望に満ちた話はおろか、要所要所では考えさせられるもののベースは楽しく読める、という作品さえ書けないというだけだろう。

 少々気味悪い挿絵も相乗効果を発揮している。良質な作品ではあるので、興味と金があれば購読してください。