不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

まぼろし綺譚/今日泊亜蘭

まぼろし綺譚 (ふしぎ文学館)

まぼろし綺譚 (ふしぎ文学館)

 古き人の短編集。この人自体初めて読む。で、「古い」以上の積極的意味は見出せないが、こういうのもたまには良い。

 ただ、SF的な話はそれほど楽しめなかった。戦前の作品かと思うくらい古い語り口のせいで、舞台となる未来世界へのイマジネーションが殺がれるのである。宇宙で大正文学っぽい口調で喋られても、違和感が残るだけだ。その中では、SF探偵小説「死を蒔く男」がいける。怪人ものの定石どおりだが、それがかえって幸いしている。逆に、ファンタジックな話は素晴らしい。和風の佇まいが何とも言えないのである。「瀧川鐘音無−いを姫物語−」は最高作だと思う。「新版黄鳥墳」も同列に語りうる傑作。いずれも、古き良き時代の日本の、原画的風景が広がる。追憶譚であるというのも高ポイント。河童が人間社会で翻弄される姿を描く「河太郎帰化」もいい。風刺に満ちた逸品である。浦島太郎にSF要素を混ぜた「玉手箱のなかみ」も上々。ラストも情感にあふれ、いい感じ。

 総じて楽しめる作品である。機会があれば、なんて薦め方しかできないクラスではあるが。