不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

海を失った男/T・スタージョン

海を失った男 (晶文社ミステリ)

海を失った男 (晶文社ミステリ)

 珠玉、と断言するに相応しい短編集。そして言葉で表現するのがこれほど難しい作家もいない、と思い知った次第。表題作はとりあえず神。その他も大変に素晴らしく、読書の楽しみを満喫させてくれる。

 ただ、自分の感性を通してしか語る術を持たない作家のため、微妙に付いて行けない面もある。これは全短編にわたり、程度の差はあれ否定しようもない。要は説得力とでも言うべきものが、ちょっと足りないのである。だからと言ってマイナス評価する気は不思議と起きない。読書には、違う感性との邂逅も含まれてしかるべきではないか?などと奇麗事を言ってお茶を濁しておく。

 いずれにせよ、じっくり味わうべき逸品であり、幻想的なSFを好む向きは必読だろう。