不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

グロテスク/桐野夏生

グロテスク

グロテスク

 まさにタイトル通り、この小説は尋常ではなくグロテスクである。何がそんなにグロいかというと、登場する女性たちの、容姿も含めた内外両面にわたる醜悪さがだ。これはもう女性自身にしか書けないというか、男が書いたらまず間違いなく干される、そんなレベルにまで達している。

 容色衰え最下級の娼婦にまで身を落とした妹、一流企業に勤めながら夜は街に立つ同級生その一、一流大学の医学部を出つつも人生が変な方向に進んで三十台を台無しにした同級生その二、そして美人の妹を持ったがゆえに〈悪意〉を磨いて生きてきた、と自称する主人公。特に、同級生その一と、主人公は重要。
 主人公のですます調による一人称は、過剰な自意識と事実の曲解がミエミエであり、読者に語り手への嫌悪感を抱かせる。それが大部の長編全体で延々と続くのである。同級生その一もどうしようもない。「頑張れば何とかなる」という信仰を胸に抱き続けるものの、当然ながら世間はそんなに甘くなく、遂に精神崩壊に至るが、その自覚が皆無なのである。自分の醜悪さに気が付かぬまま、「光り輝く夜の私を見て」とか言い出すわけで、もう怖過ぎ。

 細部の表現や、物語の展開の仕方などから考えると、桐野夏生という作家、根本的にはそんなに大家じゃないと思うのだけれど、極大なB級の感性は、A級の作品を生み出すこともある。これがまさにそう。この不愉快さ、しかしページを手繰る手は止めにくい。そんな作品である。とりあえず、個人的には今年度国内ベスト10候補。『手紙』の入る余地がそろそろなくなって参りました……。