不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

J・S・バッハ:平均律クラヴィーア曲集Ⅰ/アンタイ

 チェンバロによる演奏。

 法月綸太郎似だが彼よりは確実にハンサムなピエール・アンタイの演奏で、本当に素晴らしい。バッハというのは堅苦しいイメージが付いて回る。しかしそれを打破する演奏というのもいっぱいあるに違いないわけで、アンタイのこれは、確実にその一つ。軽やかにして粋、そして美しい。プレリュードもいいけれど、フーガは特筆の出来栄え。第二集を続けて録音してくれることを切に望みたい。

 にしても、クラシックにミューズが宿るのは、《美しい》と思う瞬間に他ならない。迫力や気迫によってもたらされる興奮は、ただの興奮であって《感動》ではない。私が「より深いところで音楽が奏でられている」と思うのは、こういう端正な演奏なのだ。

 さて、断言してしまったがいつまで大丈夫かな……。