OZの迷宮/柄刀一
- 作者: 柄刀一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/06/20
- メディア: 新書
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内容であるが、まず一編一編は従来の柄刀一。つまり、島田荘司を継ぐとさえ言われる「奇想の作家」としての彼の顔が楽しめる。「絵の中で溺れた男」とか、「ケンタウロスの殺人」とかでそれは顕著。トリック等もシンプルかつ膝を打つものが多く、奇想倒れに終わらないのは偉とすべきだろう。
ここまではいつも通りだ。凄いのはここから。連作短編として見た場合、物語はまったく別の顔を持つのだ。
「どうせ、真相が変わるとかでしょ。もしくは裏で別の殺人があったとか」
ところが『OZの迷宮』は、そういうありきたりな予断を裏切る。「密室の矢」「逆密室の夕べ」辺りはふむふむと読み流しても、人は三篇目の「獅子の城」で「おおっ」と思うはずだ。そして、その段階で作者が何をやりたいのか理解できるに違いない。
「名探偵は生き方ではなく、宿命である。」
冒頭に掲げられたこの言葉を、読者は三編目以降常に意識して読む進むはずだ。そこにミステリ的仕掛けは一切ない。だがこのドラマトゥルギーは、本格にしかあり得ないものである。「カーカー」鳴くか「クイーンクイーン」鳴く馬鹿しか惹き付けそうにないこの物語は、しかしだからこそ儚く美しい。ヲタの気持ち悪い牙城、だがそれゆえの美もあると信じたい。数年間封印していた《本格スピリット》なる言葉を、久しぶりに使いたいと思う。そう、まさにこれはそんな精神に溢れた傑作である。