不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ボーン・コレクター/J・ディーヴァー

ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)

ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)

ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫)

ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫)

 もはや現代を代表するミステリ作家である、J・ディーヴァー。その代表作である。

 この作家では『悪魔の涙』『青い虚空』をこれまで読んできたわけだが、この『ボーン・コレクター』に至り、遂に十全に楽しめた。

 ディーヴァーは真面目な作家である。
 四肢麻痺の天才鑑識捜査官、モデル出身の美人巡査、そしていい奴揃いの捜査班、という設定は、いかにもハリウッド意識しましたなあなた、という感じである。作者が真面目に書いているとはとても思えず、読者の方も予め気を抜いてしまう。つまり、普通ならこの手の話は、一定のスリルが担保されれば後はどうでもいいはずだ。しかしディーヴァーは違う。彼はまったく手を抜かない(抜けない)。このような薄手の物語に、綿密な取材に基づく過剰な情報を盛り込んでしまう。一方で人間ドラマそのものは情報に見合った深化は遂げておらず、上質のエンタメの域に留ており、与えられる情報量と文学(恥)としての密度の間には奇妙な乖離が生じる結果となった。この乖離が、過去の私を遠ざけ、そして今の私(正確に言うと日曜の)を楽しませもしたのであろう。今回に限らず、こういう「なんか変」ってのがないと、本当にいい作家とは言えないと思う。そして「なんか変」ということに気付くのに、私は時間がかかるのだ。

 とは言いつつ、話の構造自体はこれまで読んできた作品とまったく同じ。ワンパターンと断言する人も多分いる。というわけで、恐らくディーヴァーは、たまに読むからいい作家なのだろう。何気に執筆ペース速くないし、まあ半年一冊ベースで読んでいたら、いつか新作に追いつくでしょう。