不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

分岐点/古処誠二

分岐点

分岐点

 1945年夏、相模湾。徴発され陣地を築く中学生たちの、ひと夏の物語。

 中学生は何だかんだ言いつつ純粋無垢だ。あの頃は若かったなあ、と思ったことがない人はいないと思う。そして、だからこそ容易く染まり、歪み、壊れる。古処誠二はこの点に着目し、1945年夏という時代と共鳴させ、戦争の悲劇を描き出すのである。ここで作者の視線は、人死にではなく、人の歪みに注がれる。十三歳特有の青春模様、戦闘による死、居丈高な軍人など、要所をしっかりと抑えつつも、少なくともあの戦争最大の悲劇は人が歪んだことにあると、作品は主張している。このメッセージはとても重く、《エンタメ脳》以外のどこかで手応えを感じてしまう。その意味では『終戦のローレライ』以上の〈感銘〉と呼んでもいいかもしれない。

 なお、文章は相変わらず淡白である。ただ実作上でそれがプラスにしか作用していないのは評価したい。重い文体で書かれると多分逆効果。

 というわけで、個人的には超お薦めの一作。それにしても古処誠二メフィスト賞が生んだ本当にいい作家の一人だと思う。

(蛇足)
 帯の「ミステリ史上、稀にみるその殺害動機」という一文には、その通りだけれど、この作品に「ミステリ」の価値観を持ち込むのは、作品や戦争の悲劇への冒涜だと思うので、あまり強調してほしくない。逆に言うと、この話でそこを一番重視するような読者は(以下自粛)