不在の鳥は霧の彼方へ飛ぶ/P・オリアリー
- 作者: パトリックオリアリー,Patrick O'Leary,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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作品の内容に関しては、解説で神林長平が言い尽くしている。禿同というやつであり、付け加えるべきことは何もない。そこで、どうでもいいことを書こう。「後継者」って、一体何を後継したら後継者なんだろうとふと思った。オリアリーはディックの後継者だと言われている。確かにそういう要素はある。仮想世界で生きる死人なんて設定はその最たるものだろう。
しかし、神林長平も述べているように、本作の状況は割と理詰めで構築され、見通しが良く爽快感さえ漂う。ご存知のように、ディックの特徴には、解決されず錯綜する混沌、克服されない閉塞感というのもある。それを具備しない作家をディックの後継者と呼ぶのは〈正しい〉のだろうか? 色々あったが二人は兄弟、なぁんて感じでちょっと心温まる展開を見せるのも、ディックにおいては(絶対ではないけれど)想定しがたい。だが一方で、〈内容〉をこうだと言い切れる人間は一人もいない、ということも思う。つまり、中身の質が違うからといってディックとオリアリーを違うタイプなんだと言い切るのはちょっと傲慢だし冒険である。設定等の外面(まあ内面か外面かを判断するのも傲慢だが)が似ている=同じタイプと判断するのも、ある意味〈正しい〉かもしれないのだ。まあ作家を分類することには何の意味もないのだが、会社でしか脳を使わない人生は更に意味がない。ボケ防止の意味合いも若干含みつつ、以上のようなことを愚考した次第。結論は当然出ないけど。
まあそんな悩みはともかく、このSFは素晴らしい作品であり、一読の価値は十分あると保障しよう。間違いなくA級の作家が、ここにいるのである。