不壊の槍は折られましたが、何か?

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東京サッカーパンチ/I・アダムスン

東京サッカーパンチ (扶桑社ミステリー)

東京サッカーパンチ (扶桑社ミステリー)

 ゲイシャ、ヤクザ、暴走族、自動車メーカー、宗教団体などなどが乱れかう、不思議の国ニッポンを舞台とした作品。としか言いようがない。

 作者は確信犯的に、日本の姿をゆがめている。そしてその結果出来上がった楽しい世界で、馬鹿で行動的で好奇心旺盛という、いかにもB級なテンペラメントを持つ主人公を暴れさせるのだ。もちろん一部に、取材不足に基づく、意味のない嘘の日本設定があるけれど(終身刑が存在するとか)、まあ取るに足るまい。邦人でも間違うからな。
しかし作品の雰囲気を決定付ける、不思議なニッポンは、作者が意図的に作り上げたものだ。

 なお、前半非常におバカで楽しいが、ラスト近くになると急激にしんみりとしたムードになる。このギアチェンジは割と印象的だし、しかも違和感や唐突感がない。おバカな中にも哀しみや悲劇の内的伏線を張れる、実力の伴った作者なのだと思う。全体的にもけっこう読ませるし、割とお薦めである。B級ではあるが。