不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

FINE DAYS/本多孝好

Fine days―恋愛小説

Fine days―恋愛小説

 シンプルで美しいリリシズム。それが本多孝好の魅力である。それはこの『FINE DAYS』でも変化なしだった。ただし「重いテーマ」に正面から取り組むのを避け、余韻に任せちゃうという手法が顕著。単純に逃げただけではなく、幻想小説的な、そうでなくても行間や余韻を重視する要素を持ち込むことで、それを目立たずやりおおせているのが、実にうまいというか、ずるいというか……。まあ『MOMENT』を読む限り死とかは手に負えていなかったので、この方法は作品単位ではプラスに働いている。問題は、このような手段を選ぶしかなかった作家の特性をどう考えるかだ。私の見解? とりあえず、モーツァルトでもシューベルトでもなく、ショパンのようですね、などと喩えておこう。以下各短編にコメント。

「FINE DAYS」
 そうは言ってもやはり、こういうノスタルジックな小説は嫌いじゃない。それこそショパン同様に。高校時代の少しだけホラーな青春模様。深くえぐろうと思えばいくらでもできる話だが、巧妙に避けて通っている。

「イエスタデイズ」
 ノスタルジックかつちょっとタイムスリップな物語。父親がまさに死のうとしている、という切迫した状況があまり前面に出て来ない。ただしあまり強調されてもこの雰囲気は出ないので、痛し痒しだ。

「眠りのための暖かな場所」
 院生と学生の交流がコメディタッチで描かれる……のだが。何気にかなり怖いが、変に前向きでもあるという奇妙なラストを迎える。四編中では一番好きかな。

「シェード」
 O・ヘンリーを更に洗練させたような物語。ヘンリーのような深い味わいがない代わり、透明な情緒は手に入れている。綺麗過ぎてうそ臭い、などと言われても反論しにくいが。でも嫌いじゃないです。