秋に墓標を/大沢在昌
- 作者: 大沢在昌
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/04
- メディア: 単行本
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最初のうちは、男と女の静かな物語。ただ杏奈失踪後は、CIAやFBI、殺し屋、公安、チャイニーズマフィアが絡み始める。もちろんブラフということもなく、いつもの大沢の持ち味である「ケレン」全開。さすがは『新宿鮫』の作者、こういう荒唐無稽な設定でも話に引き込まれる。
問題は、杏奈を追う龍の姿が完璧にストーカーである点。私はそれを含めて楽しんだが、この楽しみ方は邪道だろう。作者の意図を最大限汲み取って物語を読み解こうとする真面目な読者にとって、大沢在昌という、そうは言っても真面目な作家の真剣な筆致(そして故に主人公のストーカー化に無自覚)と、渋くてかっこいい男だけどどう見ても変質者、という主人公の齟齬は、混乱や困惑を引き起こすに十分である。ただ龍の想いが真剣なものであることは確かだし、杏奈が危機的状況に陥っているのも確かなのだ。想いが遂げられるかは措き、惚れた女を助けに行く騎士。そのような存在として龍を捉えれば、斜に構えずとも読めます。ちょっとすれすれだが。
しかし楽しめた私でも、ラストは駄目だと思う。どっかの馬鹿が物語を《総括》してます。謎解きの要素を排した「名探偵さてと言い」の世界。そんなのに意味があるとはまったく思えない。ていうかそのまま終わっとけや。《想い》をまとめんじゃねーよ。
というわけで、傑作に成り損ねた作品。惜しいなあ。