不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

手紙/東野圭吾

手紙

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 ケーゲルのため音楽関係の文章が書けなくなったので、ミステリに戻ることにする。

 とはいっても、これはミステリではない。DQNな兄を持つ弟は大変ですね、という物語。人間を信じたい、でも信じられない、そういうアンビバレンツな作者の精神構造が如実。こういうのは嫌いではない。東野にしか書き得ない世界だろう。

 とは言え、それだけで持たした小説というのもどうなんだろう、とは思う。この方向性なら、もっとどっしり構えて重厚に仕上げても良かったのでは。自分のことをどれだけあからさまに書けるかという胆力の問題でもある。まあこれは私個人の好みの問題であって、ここで書くべきことではないかもしれない。とりあえず、今年の十指に入ることは間違いないでしょう。言うまでもないが、指は他にも九本ある。