不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

リアルワールド/桐野夏生

リアルワールド

リアルワールド

 五十歳を過ぎようとする人に、リアルな《今の》女子高生像は描けない。絶対に無理である。本人は無自覚であっても、ジェネレーションギャップは確かに存在するのだ。しかし《青春》《反抗期》自体を描出することはじゅうぶんに可能だと思う。記憶に多少の装飾は入るだろうが、鋭い人なら基本は忘れないはずである。『リアルワールド』で作者が目論んだ現代の女子高生像は見事に失敗しており、特に序盤は違和感バリバリである。その意味では疑いようもなく失敗作だ。しかし若年層の《青さ》が見事に捉えられており、特に事件が本格的に動き始める中盤以降は素晴らしい。

「他の奴らはわかりやす過ぎだが自分だけは特別」
「凄く複雑で誰にも理解できない自分」
 変な優越感とコンプレックスを抱く登場人物たち。しかし実は色々とバレバレ。語り手は五人いるが、視点が切り替わるごとに、そのイタイ様は浮き彫りにされる。

 作者のキャラ造形が若干見当違いなので傑作とは言えないが、読める作品ではある。桐野夏生は俺の知る限りでは人気のない作家だし、ここはお薦めしておくのが常道というものだろう。