不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

悪意/東野圭吾

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

 人気作家が殺された。彼は妻と共に、次の日からカナダに移住するところだった。彼は誰に、そしてなぜ、殺されたのか……?

  東野の最高傑作の一つではないだろうか。ミステリとしては、最初は一見何の変哲もなく進行するが、キモは容疑者が逮捕された《後》にある。犯罪の裏に隠れた悪意そのものが、徐々に明らかになってゆく過程は実にスリリング。詳しくは述べないが、ドキリとさせられる内容である。12月と2月はナーバスになっているだけに。そして良く考えてみれば、救いがないように見えて、何気に人間への信頼を捨てていない。東野らしい結論だと思う。そして、救いを捨て切れなかったからこそ、この作品はミステリ的価値は高くなっている。一人称と三人称が入れ替わる、ある種のメタ構造も持ち、マニアにも興味深い仕上がりになっている。

 とりあえず、私の友人たちにはお薦めできる内容。一般人には面白くないだろうな。