不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

石に刻まれた時間/R.ゴダード

石に刻まれた時間 (創元推理文庫)

石に刻まれた時間 (創元推理文庫)

 『汚名』と同じく、過去が重要なキーを握る作品。と同時に、ちょっと超常的な家が、物語の中で終始不気味な存在感を示す。この点はちょっとだけ霧○邸っぽい。

 一人称形式の小説で、主人公は事あるごとに、亡き妻に「きみ」と呼びかけ、物悲しいゴシックな雰囲気を漂わせる。これが実にいいのだ。

 とは言え、ぶっちゃけ、凄い作品ではなかったように思う。ソ連の水爆開発に関わるスパイ事件が、大きなテーマとなって来るのだが、前半はともかく、その風呂敷を畳まねばならない後半に至って、作者の筆は戸惑いを見せる。あくまで個人レヴェルで話を収束させようとしているが、その上に国家があることをどうにも処理しかねている印象。
 誤解しないでほしいのだが、バー=ゾウハーやル=カレがゴダードより上だと言っている訳ではない。前二者では、この作品の前半部は描き得ない。ただ、ことエスピナージに関する限り、前二者のやり方(それぞれ全然違うけど)が適している、と言っておこう。センチメンタリズムをベースとしたゴダードの手法で、国際謀略を十全に描きえるのだろうか。ま、こういうのもたまにはいいかもしれんが……。

 なお、最後に私の頭の悪さを告白しておこう。最後の二ページ、私には理解不能でした。ていうか意味が全然わからん。こんなことなら、もっと綿密に読んでおくんだった。七月十二日とか言われてもさっぱり覚えないし。誰かに、ネタを教えてもらいたひ……。思えば、大学時代はこういう時、便利極まりなかったのだなあ。