不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

汚名/多島斗志之

汚名

汚名

 最近になって、ようやく新刊がまともに出始めた。

 で、これは手練れの新刊。
 静かな人生を送った亡き叔母の人生を、ふと思い付いて調べ始めた主人公(五十台)は、やがて意外な「過去の大事件」に突き当たる。

 期待通りの素晴らしさ。過去を振り返るミステリとは、これ位やってくれんと意味ないわけですよ。多島の淡白な文章は、徹頭徹尾、過去の事象を《薄く清潔なヴェールの向こうにあるもの》として描く。叔母の人生を激しく揺さぶったに違いない数々のエピソードは、しかしとても静かに描写される。生々しい情感は、この小説にはほとんどない。全てはあくまでも過去の情動ってわけで、あるのは、不思議に静謐な懐旧のみ。
あまり詳しく触れられないが、ラストの二人の人物の語らいこそ、この作品のハイライトであり、全てを象徴しているもの。こういうシーン、なかなか描けるものじゃないと思う。