不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

終戦のローレライ 福井晴敏

終戦のローレライ 上

終戦のローレライ 上

終戦のローレライ 下

終戦のローレライ 下

圧巻。ただただその一言である。

誤解しないでほしいのだが、福井晴敏はこの作品で、新境地などまったく開拓しない。何から何まで『亡国のイージス』と相似形を描くその作りは、むしろ、「同工異曲」のそしりを免れない。しかし、あの『亡国のイージス』を質量共に超えて、圧倒的にハイテンションで緻密で重い。

ガンダム》で戦争を知り、戦争観をそこで育んだ世代が、「第二次世界大戦」にどのように対峙するか。銃でも戦車でも戦闘機でもなく、艦船にどうしようもなく「萌え」つつ、福井晴敏は戦争そして日本そのものも見据えている。そしてまた、《ガンダム》で戦争を括ってしまう自分への冷たい視線も決して忘れてはいない。エンタメと戦争小説の幸福な結婚は、登場人物表に一切姿を現さない「彼女」の存在それ自体、そして最後に残されるのは彼女のみという事実でもって、それが泡沫の夢であり荒唐無稽なフィクションでしかないことを冷酷に示している。
しかし同時に、《ガンダム》以降に生を受けた、実際の戦争からは遠い世代の日本人にとっては、「太平洋戦争」はこのようなものとしか感じられないのではないか?

作者本人の発言は嘘ではない。持てる力をここまで出し切った作品を、私は他に知らない。必読。
願わくば、来年度末の各種ベストまで、読者がこの作品を覚えていますように。