不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

望楼館追想 エドワード・ケアリー

望楼館追想

望楼館追想

「奇妙な味」系の物語。カーシュの短編集とは異なり、象徴性は強くは打ち出されない。ケアリーはより直裁に、「奇妙」な中にも普遍的な感情を盛り込む。不気味なイラスト(作者自身の手によるらしい)と共にある、変人ぞろいの住民たちの描写は、それだけで傑作の名に値しよう。そして彼らが織り成す過去そして今のドラマ、これが無常に無上に素晴らしい。ラストでは不思議に感動してしまう。作者の視線は、登場人物に与えたかなり酷いエピソードの数々にも拘らず、どんな者にも優しかった、というところか。

 ちょっと申し添えておくと、こういう作品をソフトカバーで出したのは大正解だったと思う。ハードカバーでも文庫でも、この情感にはここまではそぐわなかっただろう。特に奇妙な作りをしているわけではないが、版形に向き不向きはあるのだなといい意味で思えた一冊でもある。