不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

青い虚空 J・ディーヴァー

青い虚空 (文春文庫)

青い虚空 (文春文庫)

本日は書店にて《本ミスベスト》と、《本格ミステリーは密室で読め!》を見かけました。
このクソ地方部落にしてはよく仕入れたもんです。
前者をぱらぱらと見てみたのだが、ネット上での投票で柳広司が妙に順位高いのが気になる。組織票がある作家とは思いがたいのだけれど……。そのほかは、世は並べて事もなし。派閥の問題を孕むのは、人間がそこで確かに「真の人生」を生きていることの証であり、むしろ羨ましい。

過去、J・ディーヴァーは『悪魔の涙』しか読んでいなかった。で、それが面白くなかったのである。アメリカ的なヒロイズムとありがちな展開が鼻に付いたからだ。映画を趣味としないのでイメージで話すが、ハリウッドのノリ。というわけで好きになれず、ハードカバーでしか売っていないリンカーン・ライムシリーズはネグっている。
しかし今回はなぜか虫が知らせたので、先月の新刊『青い虚空』を購入してみた次第。

『青い虚空』は楽しかった。
もちろん、アメリカ的な、いかにもアメリカ(のベストセラー)的な作風は変わらない。この小説の味は、映画で同じくらい鮮明に味わうことが出来る。小説ならでは、読書が趣味でよかった、この作者に対してそういう感想は出て来ない。少なくとも、私にとってそれは永遠に続くと思う。
しかしストーリーの展開が非常に小気味良い。プチ・コンゲーム小説と言える登場人物同士の騙しあいもなかなかのもの。ありがちなキャラクター造形やオチも今回はなぜか「まあこんなもんだろ」と冷静に受け止めた。
そして気が付けば一気読みだった。残ったのは、満足感。

ハッカー同士の電脳対決という骨子が、筆跡鑑定云々よりは私の興味をくすぐった、という見方もできる。
しかし本質的には何も変わっていないはずなのだ。なぜ『悪魔の涙』はだめで、『青い虚空』がOKだったのか?
ただのモチヴェーションの差かな、やっぱり。