不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ゲームの名は誘拐 東野圭吾

ゲームの名は誘拐

ゲームの名は誘拐

 聞いた話だと、とある知人はこのタイトルを見て「やっぱ東野センスねーな」と言ったらしい。ま、ぶっちゃけ、東野のネーミングセンスがいいとは俺も思わないので、特に問題はないでしょう。

 ただ、中身はいいと思う。何よりもまずストリーテリングが素晴らしいのだ。
確かにミステリ要素は弱いし、知能指数を下げた言い方をすれば「展開が読めてしまう」。しかし、登場人物がいずれも活き活きとしているのは良い。実に良い。そのくせ本音は垣間見えないのがこころにくいばかり。

 バークリー的なひねくれを理想としつつ、ついついひよってしまう作家。バークリーにない人間に対する信頼を、東野は捨て切れないのである。そのいじらしさ、中途半端さ。俺にとって東野の作家像はそれに尽きるのだが、その範疇というか、そうでなければ語れない何かを、最大限に語り、読者に伝えようとする。それが東野の最大の美点ではないのか。
 薄い本だし手軽に読めるので、たぶん軽視される作品になるんだろうが、こういうすっきりさっぱりの切れ味は、実はなかなか味わえない。楽しめたことだけは事実である。