不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

半落ち

半落ち

半落ち

横山秀夫氏の初長編。

親父か何かがアルツハイマーなんですかね、この作者。真に迫ったボケ描写。『動機』もそうだったし、気になるといえば気になる。まあそれはともかく。

アルツハイマーで息子の命日さえ忘れてしまったことに気付いた妻に請われ、彼女を扼殺した警部の梶。彼は自首し、犯行を包み隠さず供述する。だが、犯行から自首までの二日間をどう過ごしたか、なぜか頑なに語らない。彼は一体、どこで何をしていたのか?

長編という感じではなく、刑事司法の、警察から刑務所に至るフローの中で登場する、五つの職種+記者=計六人が、それぞれの章で主人公を務め、梶の黙秘がいったい何故か、頭を悩ます。つまりはオムニバスだ。各自の人生そのものに、梶の事件が微妙に影響するのも、俺的には高ポイント。特に、裁判官の部分が印象に残った。

肝心の「理由」についてだが、やろうと思えばできたにもかかわらず、あまり執拗に引っ張らず、わかった時点から話が終わるまでわずか数ページ、というのがいい。こういうあっさりとした処理方法、私は好きです。しつこく自分の考え方押し付けて来るような小説、好きじゃないしね。「理由」そのものについては、巷間言われるほどには感動できなかったが、悪い印象を受けたわけではなく、「まあこんなのもアリだなぁ」と、淡々と受け止めた。全体的にいい小説だし、文章も味わいがある。というわけで、基本的にはお勧めである。

ただし。
半落ち』のあまりに普遍的な感動路線は、嫌いではないが、積極的に読んでやろう、読み続けよう、とは思えないのも事実。私にとって読書とは本質的に現実逃避である。だから、常識を踏まえ、その範疇で書かれた作品には、強い関心がもてないのだ。

とか何とか言いながら、『顔』も読みたいのは俺の出来心。