不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ウィッチフォード毒殺事件

ウィッチフォード毒殺事件 (晶文社ミステリ)

ウィッチフォード毒殺事件 (晶文社ミステリ)

 アントニイ・バークリーの第二長編。
 ユーモアとウィットの世界に辛うじて踏みとどまる作品。これ以上突き進むと、皮肉になってしまいます、という感じ。無論、バークリーは以降皮肉な作家となってゆくわけだが、『ウィッチフォード毒殺事件』では、(ギリギリだが)普通に愉快な作品となっている。
しかし、『トレント最後の事件』とかに比べると、ミステリに対する悪戯めいた視線は明瞭である。バークリーの先達であるベントリーは、それまでの探偵小説を新たなステージへと上げるために、名探偵を解体した。しかし、バークリーは、名探偵を解体した後のことを何も考えていない。創造のためではなく、実験のための実験という感じ。ここにミステリに対する(喜劇的な)悪意が込められたら、既訳のバークリーに近付いていくのだろう。
 ていうかやっぱバークリーは異常である。普通、シリーズ名探偵をこれほど毎回のように解体しませんてば。作を重ねるごとに酷い扱いになってるし。いまだに同じようなことした作家出てないし。
 なお、これまでバークリーは「心理を重視する」と宣言し実行したという定評があった。今回、それは単なるフェイクであったことが判明した。一作目は読んでないが、二作目にして既にこれですか。さすがバークリー、やはりその言葉、額面どおりには受け止められない。