不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

航路/コニー・ウィリス

航路(上)

航路(上)

航路(下)

航路(下)

 ミニマル・ミュージック。 要するに、短いテーマの繰り返しの音楽である。とはいっても、何回も何回も繰り返されるうち、ちょっとずつ形が変わる。そこが快感につながるわけだ。しかし、こういう音楽は、オーケストラやオペラ等の大編成には向かない。ミニマルミュージックは元来簡潔を旨とするわけで、ゴージャスな音響が必然的に発生する大編成の場合、その本質が見失われてしまうからだ。フィリップ・グラスは、ミニマルのスタイルで交響曲とか協奏曲とかオペラを書いた。そらあきまへんがな。やっぱあれですよ、スティーヴ・ライヒの初期辺りが、理想なんじゃない? モートン・フェルドマンなんて究極の選択もあるが、さすがにちと付いていけない。一秒に一個しか音のならないのが二時間続いたりするもんなあ……。真剣に耳を傾けてると、日が暮れます。

 で、コニー・ウィリスの『航路』だが、俺には無理な大編成によるミニマルミュージックと同じ欠点が見えて仕方ない。上下巻共に、同じことを何回も何回も繰り返す。少しずつ状況は変化するが、あくまで少しずつ。もういい加減にせえと。しかも「クライマックス」と称される部分も酷い。結論なんざ読者にはもうわかってんだから延々とムダに引っ張るんじゃねえよ。その上、その結論からして、よく考えてみれば最初の頃とどう違うのかよくわからん。ていうかまったく意外ではありませんが何か? 全般に無駄が多すぎる。9割はカットできるはず。感動狙うのはその短さでもじゅうぶん可能です。だいいち、臨死体験なんて興味ねー。激しく興味ねー。評判聞かなければ多分読もうともしてなかったはず。鬱だ……。