不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死者を起こせ

死者を起こせ (創元推理文庫)

死者を起こせ (創元推理文庫)

 人気作家フレッド・ヴァルガス、日本初紹介! ……らしい。
 愛称がマルコ、マタイ、ルカといううだつの上がらない自称歴史研究者三人組が同宿するボロ館。ある日、お隣さんの、一人の引退したオペラ歌手んちに、いつの間にやらブナの木が植えられる。当然のことながら不安に駆られる元オペラ歌手。しばらくすると彼女は失踪。はてさて、という物語。
 本格ミステリではあるが、語り口のセンスだけで乗り切ろうとする意図があからさまな作品。そのセンスが悪くないだけに、ちょっと評価に戸惑う作品ではある。まあぶっちゃけ、それ以外の点には穴がありすぎ。まず、この真相だったら、なぜブナの木を植えねばならなかったのか説明不足って言うかまったく説明になってません。謎としては魅力的だが、さすがに賞賛しかねます。他にも、皆様全然推理しないで、事実が淡々と判明し続けるだけ。ミステリとしてはこれまた評価しかねる。他にドラマがあるのかと言うとそんなこともないし。だが、語り口、これは紛れもなく面白い。訳者の功績も大なのかとは思うが、こういう作家、これまであまりなかったのも事実。
 というわけで、しばらく様子を見てみたい作家ではあります。