不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

奇偶/山口雅也

奇偶

奇偶

 傑作でした。
 私小説から「偶然の小説」へ変貌してゆく様が、本当に見事。まさに彼にしか書けない小説。十三年ぶりの長編、心して読むべし! ていうか明らかに小説家としてレベル上がってます。

 ……しかし一方で、山口雅也は本格の守護聖人ではない、ということも明らかになった。ここで彼がやりたかったのは、自分の経験の消化だと思う。そしてそれが、本格ミステリの意匠でなされたわけじゃないのが、実に大きなポイント。その筋の人がどう反応するのかは、注目に値する。相変わらず、無理矢理本格に引き入れることにするんでしょうが……。