そして赤ん坊が落ちる/マイクル・Z・リューイン
- 作者: マイクル・Z.リューイン,Michael Z. Lewin,石田善彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/04
- メディア: 文庫
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アルバート・サムスンとリーロイ・パウダーを兄弟たらしめたアデル(アルバートの恋人)を主人公に据え、小さな子供がいる問題ある複数の家庭とその背後に潜む深淵を、リューインにしてはユーモアを抑え気味の筆致で、手際よく描き出す作品。主人公のアデルが非常にまともな性格をしているためか、ストレートな推理小説として読める。彼女の娘ルーシーとの交流も印象的で、アルバート・サムスンはやはり外部視点から描くとなかなかカッコいい。
相変らずとても読みやすいし、ミステリとしても纏まっている(ただしそれ程手が込んでいるわけでもない)。またもや広くお薦めしやすい良作と言えるだろう。
遺す言葉、その他の短篇/アイリーン・ガン
- 作者: アイリーンガン,Eileen Gunn,幹遙子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
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企業小説版『変身』であるところの「中間管理職への出世戦略」、現代史への皮肉である「アメリカ国民のみなさん」、サイバーパンク風子供小説「コンピューター・フレンドリー」、奇妙な味のショートショート「ソックス物語」、意思(遺志?)としての言葉の不可思議さをホラー風味に表現した「遺す言葉」、少女とクジラの何とも言えない奇妙な短篇「ライカンと岩」、異星知性との情緒的な(しかし相互不理解の断絶は厳然として存在する)コンタクトを描く「コンタクト」、若者たちが異星人に妙なことを吹き込む「スロポ日和」、凄いレシピ「イデオロギー的に中立公正なフルーツ・クリスプ」、幻想ホラー「春の悪夢」は、練達の名手による傑作短編群といえるだろう。
一方、レズリー・ホワットとの合作である「ニルヴァーナ・ハイ」(超能力者である学生たちが色々やる話。全編に漂う独特の熱気が印象に残る)、アンディ・ダンカン、パット・マーカー、マイクル・スワンウィックとの合作である「緑の炎」(アシモフとハインラインが大冒険する!)辺りは、純度が下がり、その代わり割とハチャメチャの騒ぎが楽しめる。特に後者はバカSFと言っても良かろう。
というわけで、素晴らしい傑作短編集である。
とはいえ、ネット上での評判が現時点で微妙なことは認めざるを得ない。帯や前振りでの名立たるSF作家による絶賛がマイナスに作用したものと思われる。確かに、これ位誉められたら、イーガンやチャンのような作家を連想してしまうのは人情だ。しかし、落ち着いて面子や言い回しを眺めれば、イーガンやチャンとは作風が全く違うらしいとは見当が付くはず。賞賛文を何も考えず鵜呑みにする恐ろしさが、ここに出ていると思う。アイリーン・ガンには、いかなる意味でもハードSFを期待してはならない。SFは理系だけの物ではない! 我ら文系の物でもあるのだ! というわけで、むしろ、コアなSFファン以外にお薦めした方が良いのかも知れない。