不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

揺さぶり/マイク・ハリソン

揺さぶり (ヴィレッジブックス)

揺さぶり (ヴィレッジブックス)

 流行らない私立探偵エディの元に、日を違えて二人の男が相次いでやって来る。いずれも、「強奪した金を持ち逃げした相棒を捜してくれ」とエディに依頼してきた。つまり、仲間割れした銀行強盗が二人とも偶々エディの元に駆け込んできたようなのだが、どうも不審な点があった。やがてこの奇妙な強盗事件には、巧妙な罠が仕掛けられていたことが判明した。
 06年マカヴィティ賞最優秀処女長篇賞ノミネート作品である。主人公らはあれよあれよという間に悪党たちの犯罪計画に巻き込まれ、それに対して反抗を試みるのである。とはいえ本書は、社会の巨悪を糾弾するといった眉間に皺を寄せた小説ではない。男の誇りも暑苦しいほどには強調されず、基本的なノリは軽い。全編通してスイスイ快適に読めるのは素晴らしいではないか。とはいえ、その中でも各登場人物のキャラ立ちは十分であり、特に主人公に与する友人たちは印象的に活躍する。印象的といえば随所に顔を出す動物たちもいい味を出しており、物語に華を添える。猫とか犬とかは可愛く、熊は恐ろしい存在として立ち現れる。そしてこの動物たちが、人間の登場人物たちの魅力を引き立てていることも、忘れてはならないだろう。
 軽ノワールとして、広くおすすめできる佳品である。